弁護士 赤田光晴(愛知県弁護士会)トップ >> >> 刑事免責

刑事免責

刑事手続きのなかで,刑事免責制度というものが導入されることになりました。

そして,平成30年6月19日の覚せい剤密輸事件の裁判員裁判で初めて適用されました。

同日付の朝日新聞の報道によると,尋問に先立ち裁判官から証人に対し,「検察官から免責請求があり,認められました。この法廷では,訴追を受け,有罪判決を受ける恐れがあっても,証言を拒むことはできません」と説明されたとのことです。

このような,刑事免責制度とはどのようなものでしょうか。

本来,刑事裁判では,証人は,憲法38条1項に基づく自己負罪拒否特権に基づく証言拒絶権を行使して,証言を拒否することができます。

しかし,証言拒否をされた場合,犯罪を立証するために必要な証言が得られなくなります。

このような事態に対処するため,証人の証言に基づいて得られた証拠を,証人の刑事事件では証人に不利益な証拠として使えなくすることで,証言を義務付けて証言を得ることができるようにするために導入されました。

前記のとおり,裁判官も証人に対し,自己負罪拒否特権を理由とする証言拒絶ができないことを説明しています。

ちなみに,初適用された裁判員裁判では,証人となった人は,被告人のストーリーに沿う証言をしたようです。

そして,6月22日の判決では,証人の証言の信用性を否定したうえで,証人と被告人の覚せい剤密輸に関する共謀を認めたという報道がなされています。

初適用の裁判では,刑事免責制度の効果はあまり出なかったようですが,この制度については,新しい制度であるため,今後どのように利用されていくのか注目する必要があります。

特に,この制度が導入されたことで,組織犯罪等に関する迅速な真相解明を可能とするといった見解もある一方で,証人が証言をして自分の刑事事件では不利益に証拠として使われないとしても,社会復帰後に事実上の報復の懸念がある場合に,どこまでこの制度が役に立つのかという疑問もあるところですので,弁護士としては,刑事裁判実務にどこまで影響するのか,注視することが必要だと思います。