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日本版「司法取引」について

最近,司法取引についてマスコミで話題になっていますので,この「司法取引」という制度について検討したいと思います。

 

まず,刑事訴訟法の中に「司法取引」という言葉はでてきません。

刑事訴訟法上は,350条の2以下で「証拠収集等への協力及び訴追に関する合意」という規定のされ方をしています。

この制度は,平成30年6月から施行されています。

タイの発電所建設事業をめぐる不正競争防止法違反事件において,事業を受注した三菱日立パワーシステムズ株式会社と東京地検特捜部との間で合意がなされた事例が平成30年7月に報道されており,この事例が,日本における「司法取引」の第1号事件とされています。

この第1号事件のときは,会社が免責を得るために社員の刑事責任を追及するという内容であったため,本来想定されていた使い方とは反対の使い方ではないかという議論が出されており,私自身もこのニュースを聞いた際には,違和感を感じました。

 

では,日本における「司法取引」はどのような手続きなのでしょうか。

対象犯罪は限定されており,経済事件,薬物事件や組織犯罪などが規定されています。

そして,被疑者および被告人が,捜査に協力したり証言に協力したりする見返りに,検察官は,起訴しないという約束や特定の刑を科すように意見を述べることなどの約束(合意)をするという手続きになっています。

この約束は,検察官,被疑者又は被告人及び弁護人が連署した書面で取り交わされることとなっています。

もっとも,この約束(合意)が簡単にできるわけではなく,合意をするため必要な協議が必要となってきます。

この協議についても刑事訴訟法が規定しており,「検察官と被疑者又は被告人及び弁護人との間で行うものとする。ただし,被疑者又は被告人及び弁護人に異議がないときは,協議の一部を弁護人のみとの間で行うことができる。」としています。

このように,協議→合意という流れで,日本における「司法取引」が行われますが,慎重に運用しなければ,他人を冤罪に陥れる危険性もあるため,相当に慎重に利用されなければならないと思います。

 

最近,日本における「司法取引」が極めて大きく取り上げられていますが,今後,どのように捜査が進展していくのか,そしてこの「司法取引」によって得られた証言や証拠がどのような使われ方をしていくのか,弁護士として注視していきたいと思います。